TSAの仕掛けた鍵を暴く

If the TSA security officer was unable to open your bag for inspection because it was locked, the officer may have been forced to break the locks on your bag.

上記英文はTSAという米国当局が、飛行機搭乗者の預け荷物を
抜き取り(アットランダムで、全数ではない)で開けて
手作業での荷物検査を行った旨を、荷物の所有者に知らせる文章の抜粋です。

上記英文を含むslip(紙切れ)が、検査を受けた搭乗者全員の
預け荷物の中に差し込まれます。

9.11を経験した国ですから、きっととりわけセキュリティが厳しいのです。
先日米国から帰国した際、私の預け荷物の中にも
このスリップが入っていましたので、この検査を受けた事になります。
何もやましいものは入っていないので、いいんですけどネ。

…いきなり何だとお感じの方に、
この文章を引き合いに出した経緯を説明します。

実は、このスリップを先日開催したTOEIC勉強会の講義の中で利用しました。
そこで、上記の文章のIf節の中の動詞が
なぜ過去形になっているのか物議を醸しました。

Ifが導く従属節は、ふつう「時と条件を表す副詞節」
もしくは「仮定法」と相場が決まっていますが、
上記の文章はどちらにあたるのかという点で意見が割れた次第です。

本記事では、これに関する再検討を行います。※やや長いです。

私は、このIf節は時と条件を表す副詞節であるが
If節にひもついているBecauseが導く従属節との時制の一致が図られた為に
このIf節のbe動詞がwasになったという解釈をしています。

勉強会でもそう申しました。そして今もそれは変わりません。

まわりくどい婉曲表現は書きません。真相究明の為に
他のご意見を尊重しつつもストレートに書きます旨
悪しからずご了承ください。

仮定法派の方の主張の論拠は以下です。

O氏のブログ内、当該文章に言及する記事に寄せられたD氏の解釈を
一部修正し引用します。原典は「ロイヤル英文法」P.552

 ~引用開始~
 >「条件説が現在も変わらない事実と反対のことを仮定し、
 >帰結節が過去の事実の反対のことを表すときは、
 >条件説の動詞は仮定法過去、帰結節の動詞は
 ><過去形助動詞+完了不定詞>になる」
 ~引用ここまで~

 この解説にならって当該文章を訳すと要旨はこうなる。
 「もし開くことが出来なければ、鍵を壊さざるを得なかった」(反実)

 仮定法は基本的に反実仮想だから、単純に事実を書くとこうなる。
 「開くことが出来た[出来る]ので、鍵を壊さなかった」(事実)
 この和訳が示す通り、HBKのスーツケースは施錠されておらず
 TSAが開ける事が出来た(事実)から、鍵が壊されなかったのだ。

 以上

確かにこの解釈は私の場合は当てはまります。

私のスーツケースは、コンダクターの方の注意に従い
鍵をロックしておりませんでしたので、
TSAは易々と私のスーツケースを開いて検査を完了したことと思います。
私の場合は、これでもよいのです。

でも、中には鍵を壊された人もいるわけです。ここが重要です。

その人にとっての事実は、
「バッグが施錠されていて開けられなかったから、TSAが鍵を破壊した」です。
もし上記の文を仮定法的に解釈すると、
鍵をぶち壊された人に対しての通知としては
事実と真逆の内容となってしまいます。

仮定法の和訳だけで考えると一見良さそうに見えますが、
仮定法の要諦はその仮定の裏にある事実も含めて理解する事だと私は思います。

ですから、この従属節はやはり「時と条件を表す副詞節」として
解釈すべきではないでしょうか。
その条件判定が過去に(Because節と一致するタイミングで)行われたわけです。

 ※見方を変えると、本文においては、時制の一致が、
  時と条件を表す副詞節よりも文法的に優先されているとも考えられます。

この理解に基づきこの文章をかいつまんで訳しますと、
「鍵が掛けられていた為に、もしTSAがバッグを開けられなかったとしたら(条件)、
TSAはバッグの鍵を壊さざるを得なかった可能性がある」
となり、鍵を壊された人とそうでない人両方に対して
意味を持つ文言として解釈できます。

この一節を見て、
鍵を壊された人は、「なんてことをしやがる!」とブチ切れるかも知れないし、
鍵を壊されなかった人は「えー、ついてないなぁ…」とでも思うでしょう。

なお、このスリップが私のような
「手作業検査を受けたが、鍵が開いていたので鍵を壊されなかった人」
のみを対象にした文書とは考え難いです。
なぜなら、この文章の趣旨は、あくまで
「預け荷物に手作業での荷物検査を行ったことの通知」であり、
「鍵を壊されたかどうかや、それに対する謝罪」ではないからです。

ところで、この文章の主節の"may have been forced to break~"という部分で、
なぜ"may"が使われているかに関しても少し議論が起きましたが、
私はこのmayの使用は「鍵の破損という発生しうる結果に対して、
TSAが破壊したからというひとつの原因を、
確定的なものではなく可能性レベルとして示唆する為」であり、
言い換えれば免責を意図したぼやかし表現であるとみています。

なぜなら、鍵が破損した原因は他にもあり得るからです。
例えば、輸送中のガタつきで壊れたとか、ルパンみたいな泥棒が
TSA職員に紛れ込んで壊したとか色々あります。

つまらん冗談を申しましたが、実際問題として
鍵の破損に関して、may(助動詞)を使わずに「TSAの責任です」と
迂闊に事実認定してしまうと、TSAは余計な損害賠償を請求されかねません。
(無論、このスリップの別の部分にnot liable for~という文言もあります)

このmayは丁寧表現では?というご意見も勉強会の中でありましたが、
TSAのdiplomaticな意図はそうではないのではと私は踏んでいます。

私の今のところの見解は以上になります。

TSAが文章に仕掛けた鍵は正しく解けたでしょうか。
それともお粗末な解釈でブチ壊してしまったでしょうか。

「違うだろうバカたれ」など、アツい反駁をお待ちしております。
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はじめまして

はじめまして、英語関連のブログをやっているYutaと申します。
文法には詳しくないのですが熱のこもった記事ですのでせっかくなのでコメントさせていただこうと思い書き込みさせていただきました。

>その条件判定が過去に(Because節と一致するタイミングで)行われた
Oさんが書かれたときはそれはそれでなるほどと思いましたが、現実問題として開けられた人がいることを考えるとHeadbuttKさんの解釈の方が素直な読みのような気がします。ただ、開けられる人の確立がものすごく低い場合には仮定法とみなすことも可能なのではないでしょうか。まあ、この辺は文法に詳しくないので自分には全く自信がありませんが。。。

>"may have been forced to break~"
mayが使われている理由は、開けられた人もいるし開けられなかった人もいるからでいいような気がします。なぜ助動詞の中でもmayなのかは「そんなことはあまり起きないけど、そうなることもあるよ」程度かなという感想です。

TSAの責任うんぬんの部分ですが、TSAは国土安全保障省管轄の執行機関ですから法的な裏付けがあって鍵をこじ開けるでしょう。具体的にどの法律か言えるほど知識はないのですが、鍵がかかっている場合は無理にでも開けてよいと書いてある条項があるのでしょう。

ですからbe forced to do(~をせざるを得ない)と受動態になっているのはby lawというのがあって、法的な裏付けがあるからこそ書いてあると思うのです。それと、be forced to doとあるのは、TSAとしては鍵をこじ開けるという乱暴な行為は行うのは本意ではないが、法律でそのように定められているので、仕方なくやらざるを得ないと言う思いも込められているような気がします。

書きこんでおいてなんですが私の知識は当てにならないので、ちゃんとした先生がコメントしてくださるといいですね。

仮定法ではないです

はじめまして。予備校講師をしているものです。
けして「ちゃんとした先生」ではないのですがwお役に立てればと思います。
ツウクンさんのブログからおじゃましました。

If the TSA security officer was unable to open your bag for inspection because it was locked, 
the officer may have been forced to break the locks on your bag.

についてですが、HeadbuttKさんの見方で間違いないと思います。

まず、これは仮定法ではありません。
If節には「開放条件」(事実の可能性がある)と「却下条件」(事実に反する仮定:いわゆる仮定法)があります。
O氏のブログ(数日前に拝見させていただいてました)で書かれているような、
「現在も状況が変らない故、仮定法過去完了の代わりに慣用的に仮定法過去を
用いる表現(現在の却下条件文で使用する if I were you など)」とは違います。
過去の事実として、「TSAの検査員が、鞄に鍵がかかっていて検査できない状況のときには、
もしかしたら鞄の鍵を壊さざるを得なかった可能性があります」という単なる推量の文です。
#the officer was forced to break... が過去の推量may have p.p.の形になっただけです。

もし仮定法であるなら、お気づきの通り帰結節に助動詞mayを使うことはできません。
(仮定法過去完了の帰結節の動詞の形は「過去形の助動詞」+have+p.p.)
現に、O氏やD氏が例に挙げてらっしゃる例文の帰結節は、
すべて助動詞の過去形を含むものです(=仮定法)。

また、現在の却下条件文で使用する if I were you などは、S+were+C の
構造であることが多いし、もし仮定法過去だとするなら(=現在の事実に反する仮定)
because 節内の動詞が過去形なのが合わないです(現在形であるべき)。
荷物検査が終わったひとに配られる文に、なぜわざわざ仮定法で、
起こる可能性のなかったことをうだうだ説明しているのかというのも謎ですし、、、
さらに、仮定法過去であるなら、そもそも公式な注意書きのような「書き英語」で
were でなく was になっているのも気になります。

(ロイヤル英文法p.p.546より)
If he was downstairs, why didn't he answer the bell?
(直接法/開放条件:彼は実際下の階にいた可能性がある)
If he had been downstairs, he would have answered the phone.
(仮定法/却下条件:彼は下の階にはいなかった)

この上の例文と同じ構造になります。
とりとめなく思いついた順に書きましたが、仮定法でない決定的な理由は、
帰結節の形が過去の助動詞+have+p.p.になっていないことです。
その他、仮定法であればつじつまの合わないことが幾つかあるということです。

>Yutaさん
横からすみません、いつもブログ楽しみに拝見させていただいてます。
よろしくお願いします。

> ただ、開けられる人の確立がものすごく低い場合には
> 仮定法とみなすことも可能なのではないでしょうか。
ごくごく起こる確率の少ないことについては、仮定法未来(if節の中に should/were to)を使います。
仮定法過去は起こる/起こっている可能性がゼロのことにしか使えません。

Yutaさん>

ご意見ありがとうございます。

このスリップは、背景を理解していないと、
真意が読みづらい英文かも知れませんので、
TOEICのテキストとしては不向きだった恐れがありますね。

背景や、この文書の対象が明らかになっていれば
解釈の幅は狭まったかもしれません。

ちなみに、法律が規定しているのは
「預け荷物を検査しすること」のようです。
TSA is required by law to inspect all checked baggage.
という文言がスリップの中にあります。

この文が、「鍵を壊す」ところまで含意しているとすれば
Yutaさんの解釈が正しいことになります。
私もてんで米国法はわかりませんので、
ここはなんとも言えません。
(やはりTOEIC向きではないかもですね)

ぴょうちさん>

ご意見ありがとうございます。
また、Twitter上でフォローありがとうございました。

そうですね。基本に立ち返って考えてみると、
仮定法過去完了の主節では
would, could, mightやshouldなどの主に過去に視点を持つ
助動詞が使われるのでしたね。

また、政府当局が発行するフォーマルな文章で、
オーソドックスにwereを使わずwasを使っているのも
言われてみれば不自然です。

もしTSAがこの一文を仮定法的に理解して欲しいのであれば
wereを用いた方が、時と条件を表す副詞節との
混同を避ける事ができ、よりクリアな文章になるわけですよね。

この文はその逆で
wasの使用が、仰るところの開放条件での解釈が
ベターであることの証拠になっていると言えそうです。

皆様のコメントのおかげで、真相にたどり着けたようです。
プロフィール

HeadbuttK

Author:HeadbuttK
(略称:HBK)
崖っぷち会社員。

TOEICマニアです。
TOEIC990点を29回取得。

一応英検1級も取得。

謎団体「チーム寺子屋」所属

twitterでも同じHNで頻繁にTOEIC絡みの事を呟いてますので同志の方は何卒フォローをば。

☆TOEIC戦績☆
---昔---
01回:710(345/365)
02回:825(450/375) IP
03回:870(480/390)
04回:800(415/385)
05回:890(450/440)
---2011年---
06回:915(480/435)
07回:960(495/465)
08回:950(485/465)
---2012年---
09回:955(495/460)
10回:970(490/480)
11回:970(495/475)
12回:975(495/480)
13回:960(495/465)
14回:985(495/490)
15回:990(素点97/98)
16回:990(素点98/99)
17回:985(495/490)
---2013年---
18回:985(495/490)
19回:960(495/465)
20回:985(495/490)
21回:970(495/475)
22回:985(495/490)
23回:990(全問正解!)
24回:955(495/460)
25回:980(495/485)
26回:970(495/475)
27回:975(485/490)
---2014年---
28回:985(495/490)
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30回:990(素点98/100)
31回:985(490/495)
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33回:990(素点98/100)
34回:985(495/490)
35回:980(490/490) IP
36回:990(素点98/100?)
37回:990(素点99/99) IP
38回:990(素点99/100?)
---2015年---
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44回:980(495/485)
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46回:990(素点99/98?)
47回:985(495/490)
48回:990(素点98/100?)
49回:990(素点100/99?)
---2016年---
50回:990(素点99/99?)
51回:990(AM全100%)
52回:990(AM全100%)
以上、2代目TOEICとの戦績
以下、3代目TOEICとの戦績
53回:990(素点99/97?)
54回:985(495/490)
55回:990(未検証)
56回:980(495/485)
57回:990(素点99/99?)
58回:990(素点95/97?)
59回:980(495/485)
---2017年---
60回:990(素点97/96?)
61回:980(495/485)
62回:980(495/485)
63回:990(素点99/98?)
64回:990(素点97/96?)
65回:990(素点97/100?)
66回:990(素点100/99?)
67回:申込済
68回:申込済

☆英検1級戦績☆
6勝4敗4分
CSE2.0(戦闘力)2831
凡例:HBK得点/合格最低点
   1次   2次
01回:077/79|1次敗退
02回:071/81|1次敗退
03回:080/78|071/60
04回:072/81|1次敗退
05回:084/78|054/60
06回:092/78|081/60
07回:088/78|敵前逃亡
08回:087/80|066/60
09回:075/77|1次敗退
10回:093/83|064/60
11回:093/82|052/60
以下、CSE2.0導入後戦績
合格最低スコア(一律)↓
1次:2028 2次:602
   1次  2次  計
12回:2195|636|2831
13回:2190|584|2774
14回:2192|602|2794
15回:1次受験済

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